最近、チャットGPTに代表される「生成AI」という言葉に出会わない日はない。昨年11月に公開されたこの米国発のテクノロジー技術の革新性のすごさが、この短期間での社会への浸透度で推し量れる。
その活用については、業界、業種によりハードルの高さはさまざまなようだが、業務の高度化や効率化を図るという観点からはチャレンジすべきと考える。
即ち、生成AIは文書の要約や企画提案書の作成を(ミスはあっても)瞬時にこなすため、生産性の向上が図られ、余剰となった戦力をAIでは代替できない、例えば営業やコンサルティング部門の充実に振り向けることができる。しかし、留意すべきは、AIに“丸投げ”すればよいというものではなく、人間がミスを見つけ、質問の仕方などを変えていくことでAIを鍛え、理想の成果に近づける努力が必要だ。「鍛える」とは学習を積み重ねさせるということであり、そこでは人間の知恵や経験に基づいたコントロールが必要で、結局は人間自身の力量が問われる。企業の人材育成力にも直結することだ。
不動産業界では、流通市場で生成AIが作成した物件案内の品質が良く、その分野では地歩を固めつつあるようで、大きな成果といえる。直近の報道では、政府は土地や建物など不動産ごとに識別番号を割り振る「不動産ID」のデータベースを年内に一部市区町村で運用を始めるとのことで、建築規制やハザード情報、ガスや電気の利用情報を一度に入手できるようになるとのこと。不動産を仲介したり鑑定したりする際に必要な情報の全てが入手できるとは思えないが(役所で保存期限が切れた建築確認情報など)、こうしたデータインフラが整備されると、生成AIの高度化にとっても大きな支援材料となる。
不動産鑑定の現場では、生成AIの活用については、現状、消極的な意見が多い。現地調査、役所調査が必須で、そこから判断業務がスタートする鑑定業務との親和性が見えてこないことによる。しかし、生成AIに過度に期待するのではなく、不動産鑑定士が現地調査してきた諸情報を基にAIが一次的に作成したドラフト内容をAIに幾度となく問い直すことで完成形が見えてくるのではないか。次に対処する類型的に似通った案件では、そう時間をかけずに完成できるだろう。不動産鑑定では、要約文や翻訳文を生成AIにリクエストするのとは異なり、完成形に至るまでには相当の手間と時間がかかる。しかし、それでもAIを使いこなしてスキルを磨いていけば、保守的な業界にも新しい風を吹かせることができるはずだ。
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)