農地(ほ場)の減少と豪雨被害 - アール不動産鑑定合同会社/ 宮代亮二

能登半島では、「令和6年能登半島地震」に続き、9月21日の記録的な豪雨により、河川の氾濫・土砂災害が発生しました。被災した珠洲市・輪島市は、「住家被害認定調査」で前に訪れており、自分が3ヶ月ほど前に行った場所が、冠水していました。

 ところで、本年8月末、神奈川県西部で発生したゲリラ豪雨により、私の実家がある平塚市でも、72時間雨量が観測史上最多の394.0mmに達し、河川の氾濫・内水氾濫が発生しました。実家の近く、鑑定の仕事でよく伺う二宮町の法務局周辺では、河川の氾濫が発生、実家の前の道路も30cm程度冠水し、汚水のハンドホール蓋からは気泡が吹き出していました。

 神奈川西部のゲリラ豪雨は、観測史上最多の雨量とのことでしたが、私が小学生の頃も台風のときには、今回の豪雨に近い雨量がありましたが、前面道路が「池」となる内水氾濫が発生した記憶はありません。

 それではなぜ、河川の氾濫、内水氾濫にまで至ってしまったのでしょうか。

私が小学生の頃、通学路の横には、水田・畑等の「ほ場」が多く見られていましたが、令和の今、それらの水田・畑は、敷地一杯まで建物が建つ住宅の敷地となっています。また、実家近くを流れる河川の上流に存し、たばこ祭で有名な秦野市では、すでに葉たばこの畑は存せず、落花生畑も宅地に転用されるなど、かつて、ほ場だった土地は、住宅の敷地として利用されています。

 ゲリラ豪雨による短時間かつ大量の降雨に加え、保水機能を有するほ場が宅地開発により大きく減少したことで、保水機能が大幅な低下を招き、雨水が地面に浸透せず、短時間に河川に流入していることが、氾濫の大きな要因となっているものと思われます。

相続人等の土地所有者からみて経済的合理性が最も高い方法、すなわち、不動産鑑定評価における「最有効使用」は、土地所有者が不動産業者に土地を売却し、当該事業者が開発分譲地として販売することでしょう。

しかしながら、近年の台風の大型化、頻発するゲリラ豪雨等による洪水被害の抑えるためには、ほ場を維持していくことが、社会全体からみれば、最も経済合理性が高いと考えます。

今後、水害を減災するには、治水対策の観点から、保水機能を有するほ場を固定資産税等の課税対象としないだけでなく、保水容量に見合った補助金を支出することで、維持もしくは増加させていく必要があるのではないでしょうか。ほ場の更なる減少が進む前に、国等の早期の対策が望まれるところです。

アール不動産鑑定合同会社

宮代亮二

株式会社不動産経営ジャーナル「週刊不動産経営」より転載(許諾済)

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