私が長年居住している横浜市は、昨年(2024年)開港165年を迎えた、人口377万人の国際港湾都市で、市民の気質は進取の気風に富み新しもの好き、といわれています。
市の玄関口であるターミナル「横浜駅」周辺では、近年西口を中心に再開発が進行中であり、みなとみらい21地区では超高層オフィスビルやショッピングモール、ホテルやアリーナ等が集積し、横浜を象徴するエリアとなっています。
一方、開港当時から横浜の中心として、今でも県庁や地裁等の官公署、金融機関等が集積している「関内駅」周辺を散策すると、戦前に建てられた西洋風の歴史的建造物がいくつか残っています。
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多くの観光客が集まる赤レンガ倉庫や、県庁・税関等として今も現役で使用されている横浜三塔、戦後マッカーサー司令官が進駐の際に宿泊したホテル・ニューグランドなどは有名ですが、戦前から我が国の貿易の中心だった土地柄を象徴し、大層重厚な造りの旧銀行の建造物も残されています。ユニークなのはこうした旧銀行系の建造物が、現在では文化芸術活動の発信拠点として、従前の用途とはまったく違うジャンルで活用されていることです。
関内エリアでは、バブル経済が弾けて以降、一時期オフィスビルの空室率が10%台で高止まるなど空洞化が懸案とされていました。今でも地価水準では、みなとみらい21地区や横浜駅周辺地区と比較すると割安感がありますが、長らく横浜を牽引してきた関内エリアの活性化を図るため、2000年代初頭から、その役割を終えた歴史的建造物を、文化芸術活動の拠点として再生する取り組みが進められてきました。例えば、旧富士銀行横浜支店の建物が東京芸術大学大学院のキャンパスとして活用され、映画界で活躍する多くの人材を輩出してきましたし、旧第一銀行では、さまざまなアートプロジェクトが展開され、アーティストが集い活動を発信する場として役割を果たしてきました。こうした文化芸術の「創造性」をまちづくりに生かす取り組みは、全国でも広まってきています。
歴史的な建造物以外にも、関内エリアには昭和30年代に建築された老朽化した建物が残されていますが、行政の後押しもあり、遊休化した建物のリノベーションを進めて、アトリエ、スタジオ等の活動の場として活用されるケースも出ています。
ビジネス街である関内エリア周辺は、さまざまな創造活動に携わる人々が集まる街でもあるのです。
年季の入った建築物は、階段が急だったり廊下が狭かったり必ずしも利用しやすいとはいえませんが、現代の建物にはない味わい深い雰囲気があり、活動の担い手の創造力やインスピレーションが発揮されるようです。
年月の経過に伴う躯体や設備の老朽化にどう対処していくか等の難しい課題はありますが、都市に残されたストックを発想の転換により工夫して活用することで、都市の個性と魅力の向上、そこに住む人々が誇りをもって生活できるようなまちづくりがさらに進むことを期待します。
株式会社不動産経営ジャーナル「週刊不動産経営」より転載(許諾済)